日々東北現代|ARTICLE

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注文されると、少し緊張する一杯。

バーに行ったとき、一杯目は何を注文されますか?

ビール。ウイスキー。いつもの一杯。あるいは、せっかくバーに来たのだからカクテルを。

カクテルと聞けば、シェイカーを振るバーテンダーの姿を思い浮かべる人も多いと思う。あるいは、ミキシンググラスを静かにステアするマティーニ。いかにもバーらしい。

では、そんな一杯を注文されたとき、バーテンダーは緊張するのか。もちろん、する。

ただ、初めて来店されたバーに行き慣れたお客様や、同業のバーテンダーから注文されて、私が少し身構えるのは、もっとありふれた一杯だ。

ジントニック。

ジンとトニックウォーター。

誰でも名前を知っているし、作り方だけを聞けば難しい酒には思えない。

だからこそ、難しい。

私の店ではジン45ml。特段の指定がなければ、冷凍しておいたタンカレーをスタンダードにしていた。そこにライムを絞り、トニックウォーターを注ぐ。ただ、それだけではない。

例えばライム。強く絞ればいいというものではない。力を入れすぎれば皮から余計な渋みも出る。

ただ果汁を落とすのではなく、絞ったときにフレッシュな果汁がグラスの中へまんべんなく飛ぶようにする。それだけでも香りの立ち方が変わる。

私の店では、トニックウォーターだけでは甘味の主張が少し強いと考えていたので、2〜3割ほどソーダを加えていた。

そして最後にステアする。

といっても、ぐるぐる混ぜるわけではない。氷を底からふっと浮かせるようにする。

混ぜるというより、炭酸を少し活性させて香りを立たせるイメージで。

ジン。

ライム。

トニックウォーター。

ソーダ。

氷。

やっていることだけを書けば、特別なことなど何もしていない。でも、シンプルだからこそ、その一つ一つがそのまま一杯の味になる。誤魔化しが利かない。だから、初めて入るバーでその店、そのバーテンダーの力量を見る一杯として、ジントニックを注文する人は少なくない。こちらもそれを知っている。

初めてのお客様から、「ジントニックを」と言われる。

それだけで、「分かっている方かな」と、こちらも少し身構える。もちろん、本当にジントニックが飲みたいだけかもしれない。勝手に緊張しているだけである。

バーテンダーとは、案外小心者だ。

そして私の店では、ジントニックにはもう一つ意味があった。私の店には、オープン当初から一緒に店をつくってきたチーフバーテンダーがいた。

そしてもう一人。

最初はお客様として店に来ていたが、通ううちに「ここで働きたい」と志願してきた見習いがいた。見習いだからといって、カウンターの中に入ったその日からお客様のお酒を作らせることはない。

氷を用意する。

グラスを準備する。

洗い物をする。

先輩の動きを見る。

酒を覚える。

作り方を覚える。

何度も練習する。

それでも、練習で作る一杯と、お客様から代金をいただいて作る一杯はまったく違う。その境目を越えるきっかけを作ってくれるのが、意外にもお客様だったりする。

ご常連や、バーという場所をよく分かっているお客様から、我々にも一杯ご馳走していただくことがある。

あるいは、「彼にも作らせてみたら」と、見習いに機会をくれる方もいる。そんなとき私は、「では、ジントニックを作らせていただいてもよろしいですか?」とお願いする。そして見習いが、お客様の前に立つ。

グラスを用意する。

氷を入れる。

ジンを45ml。

ライムを絞る。

トニックウォーターとソーダを注ぐ。

最後にステアする。

普段、何度も練習している。やることも分かっている。それでも手つきが違う。私が見ている。チーフも見ている。そして何より、自分が作った酒をこれから飲むお客様が目の前で見ている。

たった一杯のジントニックが、急に難しくなる。でも、その緊張を経験しなければ分からないことがある。

そういえば、私もそうだった。

見習いだった頃、初めてお客様に作った酒もジントニックだった。しかも目の前にいるのは、その世界の重鎮。

緊張で手が震えた。普段なら何でもない45mlが、その日だけはやけに遠い。

ジンを量る。

ライムを絞る。

トニックを注ぐ。

最後にステアする。

格好いいバーテンダーの姿とは、だいぶ違ったと思う。

それでも、その一杯を飲んでもらった。あのときの味を、私は覚えていない。でも、手が震えていたことは今でも覚えている。

それから何年も経ち、自分の店を持ち、カウンターの中で見習いが同じように緊張しながらジントニックを作っている。技術を教えるのは、私たちの仕事である。

でも、お客様に出す一杯を作るという経験だけは、私たちだけでは与えられない。そこには、それを飲んでくれるお客様が必要になる。先輩から教わり、お客様から機会をもらう。そうやって少しずつ経験を重ね、一人のバーテンダーになっていく。

そんなやり取りもまた、昔からカウンターの内側と外側で受け継がれてきたバーの文化なのだと思う。

バーに行ったとき、一杯目は何を注文されますか?

好きなものを頼めばいい。それが一番である。ただ、もしそれがジントニックなら。カウンターの向こうでは、今日も誰かが少し緊張しているかもしれない。

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